配偶者は1億6,000万円まで相続税ゼロ|「配偶者の税額軽減」の落とし穴

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配偶者の税額軽減と二次相続の落とし穴を示すイメージ

「配偶者なら1億6,000万円まで相続税はかからない」


――そう聞いて、「では残された妻(夫)が全部相続すれば安心」と考える方は少なくありません。

確かに、配偶者には非常に手厚い軽減制度があります。ところが、この制度を目先の非課税だけで使い切ってしまうと、次の相続(二次相続)で子どもの税負担が思わぬ形で膨らむことがあります。
本記事では、税理士法人アクシア代表の曽根が、配偶者の税額軽減の仕組みと、見落としがちな「二次相続の落とし穴」、そして家族トータルで損をしない分け方の考え方まで、具体的なシミュレーションを交えてやさしく解説します。

配偶者の税額軽減については、ラジオ番組『LIFE CROSSING』第015回「税務署から突然届く「お尋ね」、その正体とは?」でも触れています。
番組URL:https://life-crossing.com/148/

1. 結論|配偶者は「1億6,000万円」か「法定相続分」まで相続税ゼロ

1-1. いずれか多い方まで非課税

まず結論です。配偶者が相続した財産のうち、次のいずれか多い方の金額までは相続税がかかりません(相続税法第19条の2)。

①1億6,000万円 ②配偶者の法定相続分相当額

これを「配偶者の税額軽減」と呼びます。「配偶者控除」と表現されることもありますが、正式な制度名は配偶者の税額軽減です。

配偶者の税額軽減と二次相続の落とし穴を示すイメージ

1-2. 具体例で確認

2つの基準は、財産が大きいほど効果を発揮します。

  • 遺産が2億円・配偶者の法定相続分が1/2のケース:法定相続分は1億円ですが、1億6,000万円の方が多いため、1億6,000万円まで非課税。
  • 遺産が4億円・配偶者の法定相続分が1/2のケース:法定相続分は2億円。1億6,000万円より多いため、2億円まで非課税。

配偶者の法定相続分は、子がいる場合は2分の1です(民法第900条)。配偶者がどれだけ相続できるかの前提となる法定相続分については、放送回でも取り上げています。
法定相続分の考え方については、ラジオ番組『LIFE CROSSING』第026回「法定相続分、絶対守らなきゃダメ?」で詳しくお話ししています。

番組URL:https://life-crossing.com/207/

1-3. 効果は絶大、でも「一次相続だけ見れば」

この制度を使えば、多くのご家庭で配偶者の相続税はゼロになります。効果は絶大です。
ただし、ここには但し書きがつきます。「一次相続(最初の相続)だけを見れば」お得に見える、という点です。配偶者がいずれ亡くなる「二次相続」まで含めて考えると、話は変わってきます。その理由は第4章で詳しく見ていきます。

そもそも相続税がいくらからかかるのか、基礎控除との関係は、関連記事「相続税はいくらからかかる?基礎控除と申告が必要なケースを税理士が解説」をご覧ください。

2. なぜこの制度がある?|配偶者の生活保障と財産形成への貢献

配偶者の税額軽減が手厚い理由は、大きく2つあります。

1つ目は、残された配偶者の生活保障です。
長年連れ添った夫婦の一方が亡くなったあと、残された配偶者がその後の生活に困らないよう、税負担を軽くする配慮です。

2つ目は、夫婦で築いた財産という考え方です。
財産の名義は一方であっても、その形成にはもう一方の支えがあったと考え、配偶者への移転には重い課税をしない、という趣旨です。


一方で、配偶者間の相続は同じ世代の間での移転であり、次の相続(二次相続)が比較的近い将来に控えているという側面もあります。
この点が、次章の落とし穴につながっていきます。

3. 税額ゼロでも申告が必要|10か月の期限と「分割確定」の要件

「税金がゼロなら、何もしなくていい」と思われがちですが、ここに重要な注意点があります。

3-1. 申告して初めて使える

配偶者の税額軽減は、相続税の申告をして初めて適用される制度です。
計算の結果、税額がゼロになる場合でも、申告書の提出が要件となります。「ゼロだから申告不要」と放置すると、軽減そのものが受けられません。

3-2. 申告期限は10か月

相続税の申告期限は、相続の開始(被相続人の死亡)を知った日の翌日から10か月以内です(相続税法第27条)。
期限を過ぎると、加算税や延滞税の対象にもなります。

3-3. 期限までに「分割が確定」していることが必要

見落としやすいのが、申告期限までに遺産分割を確定させておく必要があるという点です。配偶者の税額軽減は「配偶者が実際に取得した財産」に対して適用されるため、誰が何を相続するかが決まっていないと使えません。

ただし、話し合いがまとまらない場合の救済もあります。申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておき、その後、申告期限から3年以内に分割が確定した場合には、配偶者の税額軽減の適用を受けられる可能性があります。
なお、申告後に分割が成立した場合には、分割が成立した日の翌日から4か月以内に、更正の請求など所定の手続きが必要になります 。

なお、配偶者の税額軽減は、適正に申告された財産を前提とする制度です。
申告漏れや名義財産の認定などがある場合には、想定どおりに特例が適用できないこともあります。

相続財産の範囲や名義預金の有無などは、事前に確認しておくことが重要です。

「申告しないと使えない」特例は、ほかにもあります。自宅の土地の評価を最大80%下げる特例については、関連記事「自宅の土地が最大80%減額に|小規模宅地等の特例の使い方」で解説しています。

配偶者の税額軽減を受けるための申告要件チェックリスト

4. 最大の落とし穴|一次で使いすぎると二次相続で税が膨らむ3つの理由

ここからが本記事の核心です。配偶者の税額軽減を「一次相続で使い切る」と、なぜ二次相続で税が膨らむのか。理由は3つあります。
簡単に言うと、一次相続で配偶者に財産を集めすぎると、次に子どもが相続するときに、使える控除が減り、税負担が重くなりやすいということです。

4-1. そもそも「一次相続」「二次相続」とは

  • 一次相続:夫婦の一方(たとえば夫)が亡くなり、配偶者と子が相続するとき
  • 二次相続:残された配偶者(たとえば妻)も亡くなり、子が相続するとき

一次相続で配偶者が多く相続すると、その財産は二次相続でまるごと子へ移ります。

4-2. 二次相続で膨らむ3つの理由

  • 理由①配偶者の税額軽減が使えない 二次相続では、もう配偶者がいません。最大の武器である税額軽減(1億6,000万円の非課税枠)が使えなくなります。
  • 理由②法定相続人が1人減り、基礎控除が下がる 相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。二次相続では配偶者が抜けるため相続人が1人減り、基礎控除が600万円少なくなります。
  • 理由➂財産が集約され、税率が上がる 相続税は、遺産全体から基礎控除を差し引いた課税遺産総額を、いったん法定相続分で分けたものとして税額を計算する仕組みです。一般に、課税対象となる財産が大きくなるほど、相続税の総額も大きくなりやすくなります。一次相続で配偶者に財産が集約されると、二次相続で子が受け取る額が大きくなり、より高い税率が適用されやすくなります。
一次相続と二次相続で相続税の負担が変わることを示す図

4-3. 配偶者自身の固有財産があるとさらに膨らむ

見落としやすいのが、配偶者がもともと持っている財産(固有財産)です。一次相続で受け取った財産に、配偶者自身の財産が合算されて二次相続を迎えるため、二次相続の課税対象はさらに大きくなります。

4-4. 子がいないご夫婦は事情が変わる

ここまでは子がいる前提でお話ししました。お子さまがいないご夫婦の場合は、相続人の範囲も法定相続分も変わり、考え方が大きく異なります。
お子さまがいないご夫婦の相続については、ラジオ番組『LIFE CROSSING』第032回「子供がいない夫婦の相続、妻が全部もらえるわけじゃない!?」で詳しく取り上げています。
番組URL:https://life-crossing.com/254/
不動産価格の上昇と路線価、二次相続への影響については、ラジオ番組『LIFE CROSSING』第014回「不動産価格が上昇して相続税も増える?」でも解説しています。
番組URL:https://life-crossing.com/146/

5. シミュレーション例|配偶者に全部 vs 子にも分散、どちらが家族トータルで得か

言葉だけでは分かりにくいので、具体的な数字で比べてみましょう。
ここでは、あくまで考え方を分かりやすくするための単純化した例として、配偶者にすべて相続させた場合と、子にも一部相続させた場合を比較します。

実際の税額は、不動産評価、小規模宅地等の特例、生命保険、配偶者自身の財産、将来の財産の増減などによって変わります。

5-1. 前提条件

  • 被相続人:夫/相続人:妻・子2人の計3人
  • 遺産総額:1億2,000万円(内訳:自宅評価8,000万円+預貯金・有価証券4,000万円)
  • ※分かりやすさのため、小規模宅地等の特例は考慮しない単純化モデルです
  • ※二次相続では、配偶者自身の財産の増減はないものと仮定します

一次相続の相続税の総額は、基礎控除(3,000万円+600万円×3人=4,800万円)を差し引いて計算すると、960万円となります。この総額を、どう分けるかで負担が変わります。

5-2. パターンA|配偶者がすべて相続する

妻が1億2,000万円すべてを相続するケースです。一次相続では税額軽減が効くため、妻の相続税は0円。一見、最もお得に見えます。
しかし、その1億2,000万円をそのまま妻が保有して亡くなると、二次相続では子2人が相続します。配偶者の税額軽減はなく、基礎控除も4,200万円(3,000万円+600万円×2人)に下がるため、二次相続の納税額は1,160万円になります。

5-3. パターンB|配偶者は法定相続分、子にも分散する

妻が法定相続分の1/2(6,000万円)、子2人が残りの6,000万円(各3,000万円)を相続するケースです。一次相続では、妻の分は税額軽減で0円ですが、子2人分の相続税として480万円を納めます。
二次相続では、妻が保有する6,000万円を子2人が相続します。基礎控除を差し引くと、二次相続の納税額は180万円で済みます。

5-4. 比較|家族トータルでは約500万円の差

配偶者に全部相続と分散相続の家族トータル相続税の比較

一次相続だけを見ればパターンA(0円)がお得に見えます。ところが、二次相続まで含めると、パターンBの方が約500万円も軽くなります。「目先の非課税」につられると、かえって家族全体の負担が増えてしまうのです。

5-5. 分け方を決める判断軸

では、どう分ければよいのでしょうか。最適な配分はご家庭ごとに異なり、一律の正解はありません。次の点が判断のポイントになります。

  • 配偶者自身がすでに持つ財産(固有財産)はどのくらいか
  • 二次相続で動く財産の総額はいくらか
  • 子(次の相続人)の人数は何人か
  • 配偶者の年齢・今後の生活に必要な資金はどの程度か
  • 自宅は誰が引き継ぐか(配偶者居住権の活用余地はあるか)

たとえば、配偶者が自宅に住み続ける必要がある一方で、将来の二次相続や遺産分割も意識したい場合には、配偶者居住権が検討対象になることがあります。

ただし、配偶者居住権は登記、遺産分割、将来の売却、遺留分、税務評価など複数の論点が関わるため、税理士だけでなく、司法書士・弁護士等とも連携して慎重に判断することが重要です。
また、分け方を考える際には、相続税額だけでなく、納税資金をどのように確保するかも重要です。
不動産が多く、預貯金が少ないご家庭では、一次相続で税額を抑えられても、二次相続時に子が納税資金に困ることがあります。
預貯金、生命保険、不動産売却、金融機関からの借入れの可能性まで含めて、早めに整理しておくことが大切です。

二次相続の納税資金対策には、生命保険も有効です。関連記事「生命保険金は500万円×法定相続人まで非課税|相続税対策と納税資金の準備」もあわせてご覧ください。

6. 配分の最適解は家庭ごと|アクシアの二次相続シミュレーションへ

税理士法人アクシアでの二次相続シミュレーション相談の様子

本記事でお伝えしたとおり、配偶者の税額軽減は非常に有利な制度である一方、「一次相続で使いすぎる」と二次相続で負担が膨らむ落とし穴があります。
最適な分け方は、財産の内訳・配偶者の固有財産・子の人数・ご家族の希望によって変わります。そして、この判断は一次相続の分割を決める前、あるいはご存命のうちであれば、いくらでも設計し直せます。早く動くほど、選べる選択肢は多くなります。

税理士法人アクシアでは、一次相続だけでなく、二次相続まで含めた相続税シミュレーションを行っています。
単に「今回の税額を下げる」だけではなく、配偶者の生活資金、子どもへの承継、不動産の分け方、生命保険による納税資金、将来の売却可能性まで含めて、複数の分割案を比較します。

特に、不動産をお持ちのご家庭や、地主・賃貸オーナーの方は、相続税評価、納税資金、二次相続の影響が複雑になりやすいため、早めの試算が重要です。

「配偶者に全部相続させてよいのか」「子にも一部渡した方がよいのか」「自宅や収益物件を誰が引き継ぐべきか」で迷われている方は、まずは現在の財産状況を整理するところからご相談ください。

まとめ

本記事の要点を整理します。

  • 配偶者は「1億6,000万円」か「法定相続分」のいずれか多い方まで相続税がゼロになる
  • 税額ゼロでも申告が必要。申告期限は10か月で、遺産分割の確定が要件(未分割なら分割見込書)
  • 一次相続で使いすぎると、二次相続で①税額軽減なし ②基礎控除600万円減 ③税率上昇の3要因で税が膨らむ
  • シミュレーションでは「配偶者にすべて」より「法定相続分で分散」の方が家族トータルで約500万円軽いケースもある
  • 最適な分け方は家庭ごとに異なる。一次・二次トータルのシミュレーションで判断するのが確実

「うちはどう分けるのが得だろう」と感じた方は、お早めに税理士法人アクシアの無料相談をご活用ください。

【出典】

執筆・監修

税理士法人アクシア 代表税理士 曽根 隆寛(そね たかひろ)

1971年神奈川県川崎市生まれ。1997年日本大学大学院商学研究科修了。2001年に税理士事務所を開業し、2017年に税理士法人アクシアを設立、代表社員に就任。東京税理士会所属(登録番号:第92574号)、行政書士(東京行政書士会 第24084002号)、登録政治資金監査人(第5233号)。複数の金融機関・企業の登録専門家として、相続・事業承継・税務顧問など多角的な税務支援を行う。 ラジオ番組「LIFE CROSSING」レギュラー出演中。

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